この記事は1年前のオンラインサロン西野亮廣エンタメ研究所の過去記事です。
2018年8月3日
『老いる僕らの生存戦略』
細田守監督の最新作『未来のミライ』が面白くなかったです。
今年観た映画の中でワーストでした。
ただ、映画を観て「面白くなかった~」で終わるような面白くないヤツにはなりたくないので、観劇中、ずっと、「何故、面白くないか」について考えていました。
映画に費やした時間を無駄にしたくありません。
「面白い」には必ず理由がありますし、
「面白くない」には必ず原因があります。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『老いること』を受け止め、備えておく
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
今回の作品を細田守監督の「挑戦」と捉える人もいるとは思いますが(もちろん、挑戦の要素も多分にあったと思います)、たとえ「挑戦」であれ、お客さんの「面白かった」「面白くなかった」という感情は真実で、力技で強引に「面白かった」の方にネジ伏せることができなかった原因は、単純に『老い』だと僕は思いました。
『老い』には2種類あります。
①運動(創作)能力の低下
②自浄機能の低下
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
①「能力の低下」について。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『未来のミライ』の映像はとても綺麗で、音楽も素敵でした(山下達郎さんの楽曲はパンチが弱かったけど。あと声優が壊滅的だった)。
問題は『ストーリー(脚本)』です。
波の作り方も中途半端だし、ペース配分(「そこに、そんなに時間を使っちゃうの?」といったようなこと)に書き手の私情が挟まりまくっている感じを受けました。
今回の脚本は細田監督ご自身。
ぶっちゃけると細田監督の脚本能力は、もともと平均点以下で、『時をかける少女』や『サマーウォーズ』といった名作は、別の脚本家さんが書かれています。
「今回は脚本能力が落ちた」というわけではなく、「もともと、脚本能力は低かった」といったところ。
逆に言うと、細田監督は「他人が書いた物語をエンタメ映画にする天才」だと思います。
今回は、『他人が書いた物語』ではないので、「大ゴケ」は、能力の低下ではなく、実力相応の結果だと僕は考えます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
②「自浄機能」の低下について
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
どちらかというと、こちらの方が深刻な問題だと感じました。
年齢と共に能力は低下していきますが、ヘタに20代~40代で結果を出してしまうと、足場が固まり、まわりが意見しにくくなってしまいます。
TVタレントであれば、その関係性(パワーバランス)のまま勝ち戦を続けることは可能ですが、『作品』になってくると、関係者よりも更に更に残酷な『お客さん』が判断するので、何の遠慮もなく「王様は裸だ」と言って、関係性ではなく『数字』で結果が出てしまいます。
「それ、全然面白くないよ」と言ってくれる人が周りから消え、面白くないことに気がつかないまま自信マンマンで作品を発表し、お客さんから「いや、全然面白くないんだけど…」と言われ、地獄に落とされるのは、若いうちに結果を出して、自浄機能の取り付けをサボった人間の伝統芸です。
過去、何人もの先輩方が、この落とし穴にハマって“作り手としては”死んでいきました。
今回の『未来のミライ』の脚本にGOが出た背景に、それを強く感じました。
自浄機能の低下もまた『老い』の一つだと思います。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ならば、僕らはどうするか?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
僕は今、38歳です。
「脂が乗っている」と言われる時期で、ことエンタメ作りに関しては、誰にも負ける気がしませんし、『数字』だけで見ても、そこそこ勝っていると思います。
ただ、これは多くの表現者が通っている道で、特別なことだとは思いません。
問題はこの先で、表現者の先輩方を観ていると、無双モードは長くは続かず、どこかで必ず下り坂を迎えています。
「勝てる時に攻めまくって、守備をおろそかにして、本丸を落とされる」を多くの表現者が繰り返しています。
この辺りは、小室哲哉さんが失敗して、秋元康さんが成功し、ウォルト・ディズニーが更に成功しているように思います。
僕や僕らのチームがやらなくちゃいけないのは、『老い』(①「運動能力の低下」+②「自浄機能の低下」)が、必ず自分達の身にも起こることを自覚し、備えておくことです。
とりわけ、『出世』と『自浄機能』は、“基本的には反比例関係にある”ので、注意が必要です。
僕なんかはすでに『裸の王様』に半歩踏み込んでいると思うので、僕が面白くないものを作り始めた時には、面白くなかったら世に出せないシステム(=自分の意思で作品を発表できないシステム)を今のうちから作っておく必要があります。
それに関しては、感情や人間性ではなくて、『システム』で管理するしかないと思っています。
一昨日の『サーカス!』は、「異常」とも呼べる熱狂に包まれていました。
OWNDAYSの田中さんが舵をとり、僕に自由に空間を作らせてくれて、数百人の“働き盛りのスタッフ”さんが形にしてくださいました。
ただ、今のまま続けていると、きっと20年後の僕らには、あの熱狂を作ることができません。
それでもエンタメの最前線に携わっていたいので、その為には、どのようなシステムを作り、どのようにポジションを変えていくのかを考える必要があります。
今度、サロンメンバーで勉強会をしましょう。
『20年後もエンタメのトップでいる為には』がテーマです。
とっとと、会議室を作ります。
西野亮廣エンタメ研究所の入会ページのリンクはこちら
コメント