この記事は1年前の西野亮廣エンタメ研究所の記事です。
2020年9月18日
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おはようございます。
夜のライブ配信中に口笛を吹くと「夜に口笛を吹くと蛇が出ますよ」とコメントする人が必ず一人は出てくるのですが、「面白いわけでもないし、話が広がるわけでもないし、それを言って何になるねん(どういう展開を望んでるねん)」と思っているキングコング西野です。
さて。
数日前に投稿した記事で「不便をデザインした方がいいよ」と書かせていただいたのですが、それに対して「もう少し詳しく聞かせて」というリクエストがあったので、今日は『不便をデザインして、コミュニケーションをコンテンツにする』というテーマでお話ししたいと思います。
僕がマーケティングの学校をするのなら、今日の内容は確実にテストに出します。
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▼ 不便益
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日頃、お客さんの満足度を上げようと思って、やみくもに自動化や効率化を目指すスタッフを見つけては、「せっかく脳ミソを搭載しているのだから、使った方がいいよ」と声をかけています。
#なんてイヤミな奴なんだ
彼らの脳内にある「目的」と「手段」をそれぞれ整理すると…
【目的】お客さんを喜ばせる
【手段】便利にする
になると思います。
……まぁ、分からんでもないです。
ただ、全ての場合において「便利にする=お客さんが喜ぶ」が通用するわけではありません。
富士山の頂上まで車でブイーンと行けてしまうと、富士登山の価値はグンと下がります。
「徒歩で登らなきゃいけない」という【不便】が、富士登山というエンタメを生み、富士山周辺の経済をまわしています。
富士登山の場合、「便利にしてもいいライン」は五合目までで、それ以上、便利にしてしまうと全員が不幸になるわけですね。
こういった「不便であることによって発生している利益」のことを『不便益』と呼んだりします。
『不便益』は、to C向け(消費者向け)の商売をする全てのサービス提供者が頭に叩き込んでおかなければいけない概念です。
とくに、品質にこだわり始めると(職人化が進むと)、ここはゴッソリ抜け落ちて、「何の為の効率化なの?」という悲惨な結末を迎えるので、マジで気をつけて。
去年、僕の地元にある満願寺というお寺で、『光る絵本展』を開催した時の話です。
運営スタッフが一番心配していたのは「階段の事故」でした。
夜ですし、雨だって降ります。
うっかり足を滑らせてしまうことも十二分に考えられます。
万人規模のイベントなので、10件や20件じゃ済まない可能性もあります。
少しでも事故を減らす為に、「強い照明で階段部分を煌々と照らして、手すりをつけて、階段部分の常駐スタッフもつけて…」という方法も考えられるのですが、それは絶対にアウト。
スタッフには、
「階段部分にスモークをたいて、足元を極端に悪くして」
と伝えました。
結果、足元が極端に悪いので、お客さんは皆、一段一段確認するように階段を登り降りをしました。
不便を設計することによって、「油断」を削ったわけですね。
もしも、強い照明で階段部分を煌々と照らして、手すりをつけて、階段部分の常駐スタッフもつけていたら、走り回る子供もいて、かなりの事故が起きていたと思います。
目的はあくまで「お客さんの満足度を上げること」であって、「便利にすること」ではないので、サービスを提供する時は、「便利」と「不便」の割合を常に意識しなければなりません。
そして、これは、これからの時代、メチャクチャ重要になってきます。
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▼ 不便だから「ヒーロー」が生まれる
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この話をする時に必ず例えで出す話があります。
スペインのサン・セバスティアンで出会った山奥の酒場が最高にイケていて…店に入ると空のグラスがテーブルの上にドンと出されて、それだけなんです(笑)
店内を見渡してみると、皆、空のグラスを持って「奥の部屋」にゾロゾロと歩いていきます。
よく分からないまま「奥の部屋」に行ってみると、そこには巨大な酒樽がズラリ。
どうやら酒樽から直接お酒を注ぐらしいのですが、困ったことに、蛇口から出てくるお酒の勢いが凄いんです。
水圧が凄すぎて凄すぎて、グラスに注いだお酒が跳ね返ってしまうので、少なくとも1メートル以上は蛇口から離れないといけません。
というわけで、お酒をグラスに注ぐには、「お酒を受けとる人」と「蛇口をひねる人」の二人が必要です。
#この店では誰かの為に蛇口をひねる人がヒーロー扱いされます
この店でお酒を呑もうと思ったら、自分と同じようにグラスが空いた人を探しだして、「(一緒にお酒を)入れに行こうぜ!」と声をかけなければなりません。
コミュニケーションをとらないと、お酒にありつけないんですね(笑)
おかげで、お店のお客さんは全員が仲良し。
そりゃそうです。
「共同作業」をした仲間ですもの。
多くのサービス提供者は効率化を求めますが、便利にすることで削れてしまうものが一つあります。
「コミュニケーション」です。
商品の品質で差別化が図りづらくなった(※誰でも高品質の商品を作れるようになった)今、残された売り物は「コミュニケーション」です。
「あの店に行けば、あの人に会える」や「あの店に行けば、友達ができる」といったコミュニケーションは、多くの場合、【不便】がもたらしてくれます。
サービス提供者が提供しなければならないのは「問題」で、お客さん同士が力を合わせて「解決」するその一連のアクションがコンテンツになっていないと、品質で差別化が図りづらくなった時代に生き残ることは厳しいです。
この「不便から生まれるコミュニケーションデザイン」は、あらゆるシーンで転用できます。
コロナで少し先伸ばしになっていますが、僕らは今、移動遊園地『CHIMNEY TOWN』の開発を進めています。
最終的には、フィリピンのスラム街(トンド地区)に持っていこうかと思っているトンデモ企画です。
先日、遊園地の遊具を作ってくださる工場にお邪魔して、遊具の打ち合わせをさせていただきました。
そこで工場のスタッフさんに僕からお願いしたのは次のとおり。
「メリーゴーランドの『馬』を自転車にして、大人が必死になって漕がないと回転しない(人力の)メリーゴーランドを作ってください。そうすれば、お父さんやお母さんや近所のオジサンがヒーローになって、大人と子供のコミュニケーションが増えます」
便利(電動)にしたことで削られていた「親子のコミュニケーション」を、不便(人力)にすることで甦らせるのが狙いです。
「あの遊園地に行くと、親子の仲が深まるよね」というポジションをとりにいく。
今、(to C向けの)あらゆるサービス業に求められている変化だと思います。
キミのサービスはどうだ?
現場からは以上でーす。
【追伸】
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